ふるえ(振戦)

はじめに

「ふるえ」とは自分の意思に関わらず、体が勝手に動いてしまう症状をさします。
人前で緊張した時、重いものを持った後、寒い時など、健康な人でもふるえを感じる時がありますが、これは特に問題はありません。
一方で、何らかの病気が原因となってふるえが生じ、生活に支障を生じる場合があります。
それぞれ症状が異なるため、ふるえの種類をきちんと把握し、各疾患に応じた治療を行うことが大切です。

震えのタイプ

①動作中に関係しておこる震え(動作時振戦:どうさじしんせん)

  • 姿勢時振戦(同じ姿勢をとり続けているときの震え)

    重力に逆らって一定の姿勢に手を挙げているときに震えがみられます。
    新聞を読んだり、コップを持ち上げた状態の時などにみられやすいです。
    生理的な振戦、本態性振戦、甲状腺機能亢進症、アルコール依存症などでみられます。

  • 運動時振戦(手を動かしている最中の震え)

    手を動かすときに、動作の開始直後から生じて目標物に手が届き動作が終わると止まる震えです。コップで水をのむときであれば、コップをもって動かしているときに震え、口に届くと収まります。
    本態性振戦などで起こります。

  • 企図振戦(目標物に手が届きそうになると強くなる震え)

    動作中におこる震えで、目標物に近づくと余計に震えが強くなります。やや不規則で大きなの震えがみられます。
    コップで水を飲む動作の場合には口に届きそうになると余計に震えが強くなり、こぼしてしまいそうになることもあります。
    小脳の病気が隠れていることがあります。

②じっとしているときの震え(安静時振戦:あんせいじしんせん)

  • 力が抜けているときに震えが出ます。動作時振戦とは逆に、動作をすることで震えは停止します。このタイプの震えの大部分はパーキンソン病が原因です。

本態性振戦

原因

はっきりした原因がないにもかかわらず、手や頭などが不随意に(意のままにならずに)震える病気のことです。
パーキンソン病やバセドウ病、脳卒中、アルコール依存症などの振戦を引き起こす原因となる病気がないにもかかわらず発症する振戦のことを本態性振戦と呼びます。
本態性振戦は家族内で発症するケースが多いとされており、遺伝的要素が関係している可能性も考えられています。

症状と特徴

何らかの動作をしたり、ある一定の姿勢をとったりするときに手や指、頭、などが小刻みに震える“振戦”が現れるのが特徴です。
また、精神的な緊張が高まったときに増強することが多く、疲れやストレスなどがたまったときにも悪化しやすくなる傾向があります。一方、お酒を飲むとふるえが軽くなることもあります。
症状が強くなると、うまく字が書けない、箸が使えない、飲み物をこぼしてしまう、といった日常生活に支障をきたすような動作の障害や、声が震えるなど人前に出るのが苦痛になるような精神的ダメージを生じやすくなります。

治療方法

症状が軽い場合においては、治療が必要になることは少ないですが、日常生活や仕事への支障が出てきたり、
精神的な苦痛によって活動性や社会性が低下したりするような場合には治療が考慮されます。

本態性振戦に対する治療では、まず薬物療法を行います。
第一選択となる薬は “β遮断薬”です* (骨格筋にあるβ2受容体にアドレナリンが到達するのを防ぐ)。
ただ、気管支喘息などがある場合はβ遮断薬を服用することはできません。
そのほかに、抗てんかん薬や抗不安薬などが用いられることもあります。

パーキンソン病

原因・特徴

体を安静にしている時に生じる振戦が特徴です。その他に、動作がゆっくりになる、歩き方が小刻みになる、姿勢が前かがみになる、などの症状が随伴する場合があります。
(パーキンソン病の項で詳しく説明していますので参照してください。)

ギランバレー症候群

ギラン・バレー症候群とは、末梢神経が障害されることによって脱力・しびれ・痛みなどの症状が引き起こされる病気のことです。
発症率は10万人あたり1~2人と比較的珍しい病気です。
神経は、様々な情報を送り出す神経細胞の軸索突起を、情報の伝達スピードを速める髄鞘がとりまく構造をしています。ギラン・バレー症候群の多くは、ウイルスなどに立ち向かうはずの免疫システム(抗体など)が、自己の末梢神経を攻撃して髄鞘に障害が起き、神経の命令の伝導が障害されることで、手足の麻痺などの症状が出ます。
髄鞘は回復機能が高いため、治療により免疫システムを正常に戻せば、神経の伝導も回復するとされています。
しかし、神経軸索突起までダメージが及んでしまった場合、回復に時間がかかります。

原因

ギラン・バレー症候群患者の3人に2人はカンピロバクター、サイトメガロウイルス、EBウイルスなどの感染症にかかった既往があるとされています。カンピロバクター腸炎後に起こるギラン・バレー症候群では、この細菌に対する抗体が自身の末梢神経を攻撃してしまうことにより発症することが分かっています。サイトメガロウイルス、EBウイルス感染後に起こるタイプについても同様の原因が推定されていますが、まだ証明はされていません。そのほかにも、インフルエンザなどのワクチンによって引き起こされるケースも報告されています。また、新型コロナウィルス感染、ワクチン接種の後に発症するケースも報告されています。

症状と特徴

下痢・風邪症状や発熱などの感染症症状が先行して、その1~4週間後に手足の力が入りにくくなっていくのが典型的なパターンです。
また、脱力と同時にしびれや痛みが生じるケースも少なくありません。
一般的に、これらの症状は上下肢に現れますが重症なケースでは、呼吸に関わる筋肉が麻痺して呼吸困難に陥ることもあります。
さらに、末梢神経のなかでも自律神経のダメージが強い場合は、脱力・しびれ・痛み以外にも頻脈や血圧の高度の変動などの症状が引き起こされることも知られています。
ギラン・バレー症候群の多くは発症後4週間ほど経つと徐々に改善に向かい、半年~1年ほどで元の状態に戻っていきます。
しかし、急激に重症化するケースもあり、発症者のや約20%は1年後でも何らかの神経障害を残し、2~5%の方は亡くなっているのが現状です。

治療方法

この病気は特別な治療を行わなくても自然に症状が軽快していくケースが多い一方、重症化するケースもあるため発症した場合はできるだけ早い段階で治療を開始することが望ましいとされています。

ギラン・バレー 症候群の主な治療は免疫調整療法とリハビリテーションです。 

  • 免疫調整療(免疫グロブリン療法、血液浄化療法)
  • リハビリテーション

多発神経障害

感覚麻痺が左右対称性に手足にみられ、深部感覚(関節の位置や動きを司る)・表在感覚(触られる・冷たい・熱い・痛いなどの感覚)のいずれもが障害され、遠位部の運動麻痺や腱反射低下を伴うことがある.原因は糖尿病が代表的で、異常感覚が多くの例でみられ、しびれや灼熱感・足の違和感がみられる。
神経障害が高度になると、感覚は低下して糖尿病性壊疽に陥ることがあるので注意が必要である。

運動失調

この病気は特別な治療を行わなくても自然に症状が軽快していくケースが多い一方、重症化するケースもあるため発症した場合はできるだけ早い段階で治療を開始することが望ましいとされています。

ギラン・バレー 症候群の主な治療は免疫調整療法とリハビリテーションです。 

  • 免疫調整療(免疫グロブリン療法、血液浄化療法)
  • リハビリテーション

アルコール離脱の伴うふるえ(振戦せん妄)

原因・特徴

振戦せん妄は、アルコールの離脱症状(俗にいう禁断症状)のひとつで、長期間の飲酒歴のある重度のアルコール依存症者が、飲酒を中断または減量した際に起こります。
多くは大量のアルコール摂取を中止または減量してから2~4日目頃に出現し、通常3~4日で回復しますが、個人差が大きく、長引くこともあります。身体的な合併症がある場合に起こりやすいといわれています。
死亡率37%程度と言われていますが、適切な治療で5%以下に抑えることが出来ます。

症状と特徴

主な症状としては「頻脈や発熱」「発汗などの著明な自律神経機能亢進」「全身性の粗大な振戦」「意識変容」「精神運動興奮」「見当識障害」「幻覚」などが挙げられます。

幻覚のなかでは、幻視が多く、実際には存在しないはずの小動物や虫・小人が多数見えてきたり、それらが身体の上に這い上がってくるように感じたりします。また壁のしみが人の顔に見えるなどの錯視や、作業せん妄が出現することもあります。
「振戦せん妄」が現れる時期は、「脱水」「低栄養状態」「電解質異常」「低血糖」などが起こりやすく適切な処置を行わないと重篤な状態になることもあるため注意が必要です。

治療方法

アルコール依存症は生活習慣病の一つであり、決定的な治療法はありません。
各患者さんに応じて、いくつかの治療を組み合わせることで断酒率を上げることで振戦せん妄などの離脱症状を発症させないようにすることが大事です。
治療のメインは心理社会的治療であり、薬物治療は補助的役割を担います。

その他の疾患

原因・特徴

生理的振戦

ふるえのうち一番多いものが生理的振戦です。
寒い時に起こる生理的振戦では、口や手だけでなく全身に震えが起こります。
緊張や不安、恐怖など心理的な場合でも同じく口や手だけでなく足がガタガタ震えたりもします。
これは心理的な作用で交感神経が活発に働くことが原因です。
病気が原因の振戦とは違い、状況が改善されればふるえの症状を起こすことはありません。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝機能が高まってしまう病気です
20~30代と比較的若年層に多く見られ、男性よりも女性の方が発病率が高い病気です。
バセドウ病の症状には、メルゼブルク三徴(甲状腺腫・眼球突出・頻脈)と呼ばれる特徴的な3つの症状が代表的です。
また、代謝機能が高まることにより 手の震え、指先のふるえ、体重の増加もしくは減少、疲労感、イライラ、精神不安定、動悸や息切れ、高血圧など様々な症状を起こすこともあります。

薬剤性振戦

パーキンソン病とよく似た症状を示す状態を「パーキンソニズム」と言います。パーキンソン病は、ドーパミンが不足することで症状が表れます。
薬の副作用でドーパミンが低下し、似たような症状が表れるのが「薬剤性パーキンソニズム」と言います。
原因となりえる薬を服用後数日から数週間で発症することが多く、 パーキンソン病とは違って左右対称に症状が出る傾向があり、姿勢時や、動作時の振戦が起こりやすいです。(パーキンソン病は安静時振戦)
女性や高齢者の方に起こりやすく、原因薬剤の服用量が多ければ多いほど発症しやすいと言われています。
このパーキソニズムを起こしやすい薬として抗うつ薬、抗精神病薬や制吐剤などが原因薬とされています。

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