消化器疾患

胃炎

胃炎は胃の内側の表面の「胃壁」に炎症を起こしている状態のことを指します。
胃は高濃度の酸である「胃酸」が出ている場所で、粘膜がバリアとなって胃を守っています。
しかし、食べ過ぎ、過度の飲酒、喫煙、ストレス、薬剤の副作用などの原因によってバリア機能がうまく働かなくなると、胃粘膜に炎症が起こります。この胃粘膜の炎症の総称が「胃炎」です。

「急性胃炎」と、ピロリ菌の感染などが原因となる「慢性胃炎」に分けられます。 慢性胃炎のうち、ピロリ菌の感染が原因の場合には、除菌治療でピロリ菌を除去しないと炎症が進行し、潰瘍などを起こすことがあります。
また、慢性胃炎を繰り返して進行すると萎縮性胃炎になることがあります。萎縮性胃炎は胃がん発症リスクが高くなります。

症状と特徴

急性胃炎

食べすぎ飲みすぎやストレス、ウイルス、ピロリ菌の感染、食中毒、アレルギーなどが原因で胃の粘膜がただれ、みぞおちが突然キリキリと痛むことがあります。胃痛の他に、吐き気や下痢をともなうこともあり、ひどい場合は嘔吐や吐血、下血を起こすこともあります。

慢性胃炎

原因の約8割がピロリ菌の感染によるものですが、その他、非ステロイド性抗炎症薬の副作用や慢性的なストレスなども原因になると考えられています。
胃の粘膜が弱まり、炎症が繰り返されて治りにくくなっている状態です。突然胃痛や吐き気が起こり、多くは胃もたれや胃痛、胸やけ、膨満感、吐き気、げっぷなどの症状が慢性的に繰り返され、胃潰瘍に進行することもあります。

分類

急性胃炎
  • 表層性胃炎・びらん性胃炎
    原因として、精神的あるいは肉体的ストレス、外傷、手術、薬剤、アルコールなどの飲食物などが報告されています。
    男性に多く、若年層ではストレスによるものが多く、薬剤によるものは、基礎疾患のある60歳代に多いといわれています。
慢性胃炎
    • 萎縮性胃炎
      胃の粘膜に長期間にわたって炎症が起こることで、粘膜が壊されたり修復したりすることが繰り返されて、しだいに胃の粘膜が薄くなってしまった状態のことをいいます。萎縮性胃炎と慢性胃炎は、ほぼ同じ意味として扱われます。
      特に、ヘリコバクター・ピロリ菌によって起こった萎縮性胃炎では、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどの病気を起こす可能性が高くなるとされています。

    • 鳥肌鼻炎
      内視鏡検査で胃の粘膜があたかも皮膚にみられる鳥肌のようにみえる状態で、この所見は幽門前庭部から胃角部などの胃の出口に近い場所にみられることが多いです。
      若年の女性に多い生理的な現象と考えられていましたが、小児や若年成人のピロリ菌感染者に多く認められ、この胃炎と消化性潰瘍や胃癌との合併例も報告され、鳥肌胃炎は胃癌のハイリスク胃炎であると言われています。

    • 雛壁肥大型胃炎
      多くはピロリ菌の感染によって起こります。
      特徴は、胃体部粘膜の過形成、高度の炎症を認めて、胃酸分泌の低下を伴います。
      皺襞肥大の程度によって胃癌のリスクが増加します。

  • A型胃炎(自己免疫性胃炎)
    自己免疫機序による胃体部を中心とした慢性萎縮性胃炎です。
    ビタミン B12 や鉄などの吸収障害が起こり、神経内分泌腫瘍や胃癌の発症のリスク因子です。

内視鏡検査

 
 
 
 
 
 

消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)

消化性潰瘍とは、何らかの原因で胃や十二指腸の表面を守る粘膜が深く損傷した状態になっていることをいいます。
このような状態になってしまうと粘膜が完全に失われてしまい、粘膜の真下にある粘膜下層という部分や胃や十二指腸を構成している筋肉まで炎症が広がってしまいます。このような状態を消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)と言います。
消化性潰瘍にまで進行してしまうと症状が重く、非常に激しい痛みが出てきます。
このまま放置を続けてしまうと、胃がんや十二指腸がんを引き起こす原因にもなるので注意が必要です。
一般に胃潰瘍は、中年以降に多く、また、十二指腸潰瘍は、青年・壮年に多い傾向があります。男女差では、男性に多いのが特徴です。

原因

消化管(胃や十二指腸)には、食物を分解する消化液・胃酸が存在しますが、それらから身を守る防御機構を有しています。
攻撃因子(消化液・胃酸)と防御機構のパワーバランスが崩れ、攻撃因子が優位になると、自分の粘膜を攻撃し、傷つけてしまいます。
健康な人は、食事をして胃液が多量に分泌されても、胃の粘膜が傷つくことなく食物を消化できます。
潰瘍ができてしまうということは、胃液と胃の粘膜のバランスが崩れているわけです。

消化性潰瘍の原因は、大きく2つに分類できます。

1.胃液の分泌が増加しすぎて、胃の粘膜を傷つける
2.胃の粘膜が弱くなり、胃液からダメージを受ける

胃酸と粘液の分泌のバランスが崩れる原因として、以下のことが考えられます。

胃液の分泌過多の原因

胃酸分泌過多になる原因は様々ですが、主にストレス、食生活、喫煙と言われています。

    • ストレス
      一時的に交感神経が優位になります。
      しかし、それを調整するために副交感神経も活発になり、胃酸が多量に分泌されると考えられています。

    • 食事
      コーヒー、アルコールなどの嗜好品があります。
      コーヒーは興奮作用があり交感神経を優位にさせるので、その後に副交感神経も過敏になり胃酸過多になります。
      飲酒は胃酸の分泌を促しますので、大量に飲めば、胃液と胃粘膜のバランスが崩れやすくなります。
      また、食生活の乱れも原因となります。例えば肉料理など脂っこいものは消化に負担がかかり、たくさん食べると、ガストリンというホルモンが多量に分泌されます。
      ガストリンは胃酸やペプシノーゲン(タンパク質分解酵素)の分泌を促すホルモンで、胃酸が過剰に分泌されます。

    • 喫煙
      喫煙により血管が収縮して血行が悪くなって胃粘膜は酸素欠乏を起こし、機能低下や胃粘膜の抵抗力低下につながり、潰瘍を発生しやすくなります。
      また、胃粘膜内のプロスタグランジンが減ることもわかっています。プロスタグランジンは胃の防御因子として働いていますので、これも攻撃と防御のバランスの崩れにつながります。
胃の粘膜が弱くなる原因

胃の粘膜が弱くなる原因で重要なものは、主に下記の2つが原因であることがわかっています。

①ヘリコバクター・ピロリ菌感染
②NSAIDS(痛み止めとして多く使われる非ステロイド系抗炎症薬)

    • ヘリコバクター・ピロリ菌

      ピロリ菌は不衛生な飲み水や食べ物から体内に入ると考えられています。
      近年は衛生状態が良くなっており、若年者での感染率は低下しています。

      ピロリ菌はウレアーゼという酵素を産生し、胃粘膜中の尿素を分解してアンモニアを作り出します。
      このアンモニアはアルカリ性なのでピロリ菌の周りの胃酸が中和されて胃粘膜に生息できるのです。
      ピロリ菌の産生するアンモニア、毒素、活性酸素などが胃粘膜に潰瘍を生じさせていると考えられています。

      ・頻度:多くは5歳以下の幼児期に感染しています。(胃酸分泌が少なく、胃粘膜の免疫が不十分なため)
      日本での感染率は50代以上では80%程度、10-20代では20%前後で、感染者の5%程度に症状が出ると言われています。
      ピロリ菌は一度持続感染すると、多くの場合で生涯にわたって胃の粘膜に感染し続けます。

      胃潰瘍の60~80%、十二指腸潰瘍の90~95%がピロリ菌陽性と言われ、ピロリ菌を除菌することで潰瘍の発生がが大幅に減少することから、ピロリ菌感染の有無は非常に重要視されるようになりました。

      ・ピロリ菌検査

      血液検査:血液中のピロリ菌に対する抗体の有無を調べます。

      尿検査:尿中のピロリ菌に対する抗体の有無を調べます。

      尿素呼気試験(UBT):検査薬(特殊な印を付けた尿素)を内服すると、ピロリ菌がいる場合にはウレアーゼによって尿素が分解され、二酸化炭素とアンモニアになります。この二酸化炭素には特殊な印が残るようになっており、その二酸化炭素の量を測定することで感染の有無を調べます。

      便検査:便から排出されるピロリ菌を検出します。

      ※検査時に一部の胃薬(プロトンポンプ阻害薬)や抗菌薬などを飲んでいる場合には、ピロリ菌感染の正確な判定が出来ないことがありますので胃薬や抗菌薬を最近服用した場合には医師に相談してから検査をしましょう。


    • NSAIDs潰瘍

      NSAIDsは解熱・鎮痛・炎症を抑えることを目的として日常的に多く使われる薬剤です。
      また、脳梗塞や心筋梗塞になった方の再発予防に使用されるアスピリンもNSAIDSの一種です。
      そのため、NSAIDsを頻繁に使う脳梗塞、心筋梗塞発症後、リウマチ、関節の痛みのある方、頭痛持ちの方などにNSAIDs潰瘍が起こりやすいです。

      NSAIDSは、胃粘膜保護作用のあるプロスタグラジン(PG)の産生を抑えることで、鎮痛・抗炎症作用を発揮しますが、これを抑えることで胃粘膜の防御力が低下し潰瘍が発生しやすくなるといわれています。
      非常に有用な薬剤である一方で、 消化性潰瘍に対しては大きなリスクとなります。

症状と特徴

自覚症状で最も多くみられるのは上腹部痛です。
胃潰瘍では、食後30分から1時間たったあとの上腹部痛がよくみられます。
十二指腸潰瘍では、空腹時痛がよくみられ、とくに夜間から朝方に腹痛が起こりやすいです。
しかし、すべての胃・十二指腸潰瘍の患者さんに上腹部痛が現れるわけでなく、20〜30%では痛みが出現しないことに注意する必要があります。
また、潰瘍からの持続的な出血があると、吐血または下血(タール便:黒っぽい便)として症状が現れてきます。
出血症状が現れた場合は、急を要することが多いので、病院を早急に受診してください。

胃壁は粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層、漿膜からなっており、損傷される深さによってびらんと潰瘍に分類されます。粘膜までの傷害がびらんですが、粘膜下層よりも深部にまで傷が及ぶ場合が潰瘍となります。

検査

胃・十二指腸潰瘍の診断に最も重要な検査は、バリウムによるX線造影検査と内視鏡検査により診断をつけます。

①X線造影検査

バリウムを服用後、体位をいろいろ変えながら撮影します。潰瘍部位にバリウムがたまるため、ニッシェと呼ばれる特有の像を示します。
そのほか、間接症状として胃や十二指腸の変形がみられることがあります。
十二指腸球部の変形は、クローバー状や歯車状を示すことがあり、タッシェと呼ばれています。

②内視鏡検査

胃・十二指腸潰瘍の診断において内視鏡検査で得られる情報量は、X線検査の数倍以上といわれています。
バリウム検査より被曝の可能性はないので繰り返し受けることができます。内視鏡観察下で組織の一部を採取して調べる生検を行うことがあります。主として胃がんとの鑑別のためなのですが、ピロリ菌の診断を目的とした生検が最近は増えてきています。
さらに、ピロリ菌の関与が疑われる際には、ピロリ菌の検出を目的とした血液検査や迅速ウレアーゼ検査なども行われます。

 
 

治療方法

保存的治療(胃炎、潰瘍)

胃酸を抑えるH2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬やプロスタグランジン製剤などの内服薬を使用します。
ピロリ菌の関与が疑われる際には、ピロリ菌を除菌します。
鎮痛剤によるものであれば、可能な限り痛み止めの使用を控えて、潰瘍をきたしにくい薬剤への変更も考慮します。
また、潰瘍からの出血により貧血が進行するようであれば、場合によっては、輸血も検討されます。

内視鏡治療

【内視鏡的止血術】
潰瘍からの出血が止まらず、吐血を繰り返す場合は、内視鏡で止血を行います。

  • エピネフリン添加高張食塩水(血管を収縮させる。間質を膨らませ血管を圧迫する)や純エタノール(血管を凝固壊死させる)などの薬剤を用いた局所注入法
  • アルゴンプラズマ照射による組織凝固法
  • クリップにより血管を把持絞扼する機械的止血法


これらの処置を行っても出血が止まらない場合は外科的手術や血管造影による止血処置を行うことになりますが、胃の出血においては内視鏡的処置で止血できるケースが多いです。

手術治療

下記の合併症が起こった場合は手術が必要になることがあります。

  • 穿孔
    潰瘍が進行して、胃や十二指腸の壁に穴があいてしまう場合。
    多くは、急性腹膜炎を起こします。
  • 大出血
    大量に出血すると、貧血が進行しショック状態に陥る可能性が高い場合。
  • 幽門狭窄
    潰瘍により、幽門が狭くなると、食物の通過障害が起こる場合。

機能性ディスペプシア(FD)

定義

「病状の原因となる器質性、全身性、代謝性疾患がないのにも関わらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」とされています。

主な症状

「胃のもたれ感」
「食事後にお腹が張った感じがする(早期満腹感)」
「みぞおちの痛み(心窩部痛)」
「みぞおちの焼ける感じ(心窩部灼熱感)」

原因

①胃の運動機能障害
食事をすると、胃はその食べ物を溜めるために緊張を緩めて膨らみ(適応性弛緩)、胃の蠕動運動で十二指腸へ食べ物を送ります。
この適応性弛緩が不十分であるために(適応性弛緩不全)、胃に十分な食べ物が貯められず、早期膨満感や痛みなどが引き起こされます。
また、胃の中にある食べ物を、十二指腸へうまく送ることができず、胃の中に食べ物が長くとどまってしまい、胃もたれなどが引き起こされます。

②胃の知覚過敏
「知覚過敏」とは胃が刺激に対して痛みを感じやすくなっている状態を指します。少量の食べ物が胃に入るだけで胃の内圧が上昇し、早期膨満感が引き起こされたり、胃酸に対して過剰に痛みや灼熱感などを感じることがあります。

③胃酸分泌
十二指腸に胃酸が流れ込むことによって胃の運動機能が低下し、胃もたれなどの症状が引き起こされることがあります。

④心理的要因
生活上のストレスなどの心理的・社会的要因と機能性ディスペプシアは関係があると言われています。

⑤その他
ヘリコバクター・ピロリ菌感染や腸管感染症などの疾患、遺伝、喫煙習慣、アルコール摂取、不眠などを原因として、症状が現れることがあります。

治療

薬物療法や生活習慣の見直しなどで、症状の改善を目指します。
症状に合わせて、胃酸の分泌を抑える薬や漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬が処方されます。
また、ピロリ菌が陽性だった場合は、ピロリ菌の除菌治療を行います。

胃ポリープ

胃ポリープとは正確には「胃に発生する上皮性、良性、隆起性病変」のことをいいます。
明らかに良性と診断されれば経過観察してかまいませんが、組織学的に悪性化の可能性のあるもの、増大傾向のあるものは切除する必要があります。

大きく3つの種類に分類されます
  • 過形成性ポリープ
    ピロリ菌感染による胃炎が起こった胃粘膜にできる胃のポリープです。
    傷つけられた粘膜を再生しようと、新しく粘膜細胞を作り出します。
    その粘膜を過剰に作ってしまう事でポリープが発生すると言われています。
    大きさが数mm程度のものであれば経過観察しますが、1~2cmほどになると5-8%程度で癌化することがあるため、大きさによっては切除が必要となります。
  • 胃底腺ポリープ
    はっきりとした原因は不明ですが、ピロリ菌の感染がない健康的な胃粘膜にできることが多いポリープです。
    特に女性にできやすく多発する傾向があります。良性のポリープのため放置して問題ありません。
  • 腺腫性ポリープ
    やや白っぽい扁平な小隆起で良・悪性の境界病変です。
    高齢男性に多く、癌化のリスクが高いと考えられています。
    胃粘膜の高度な萎縮や変性(腸上皮化生) を背景として発生します。
 
 
症状

ポリープが小さい場合は症状がほとんどありませんので、検診などで偶然発見されることが多いです。
大きくなってくるとポリープが崩れて出血し、吐血や下血などの症状が出ることもあります。

治療

現在のところ、ポリ-プを効果的に治す薬はありません。
大きさ2cm以上で増大傾向を認めるもの、がん化の可能性があるもの、出血していて貧血の原因となるものを内視鏡的にポリープ切除を行います。

粘膜下腫瘍(SMT:Submucosal tumor )

消化管壁の粘膜よりも深いところ(粘膜下層)に発生する腫瘍のことを、粘膜下腫瘍(SMT:Submucosal tumor)と呼びます。そのうち、粘膜下層内のカハール介在細胞から発生した腫瘍のことを消化管間葉系腫瘍(GIST:Gastrointestinal stromal tumor)と呼びます。
消化管粘膜下にできる腫瘍はGISTだけではなく、平滑筋腫、脂肪腫、神経系腫瘍などがあります。
粘膜下腫瘍には、治療のいらない良性の病変から、治療が必要な悪性病変までさまざまなものがあります。

症状

腫瘍が小さい場合は症状がほとんどありませんので、検診などで偶然発見されることが多いです。
腫瘍が大きくなってからでないと症状が出ないことが多く、しばしば発見が遅れます。大きくなってくると腫瘍が崩れて出血し、吐血や下血などの症状が出ることがあります。

原因

粘膜下腫瘍はさまざまな種類がありますが、最も多いGISTの原因についてご説明します。
GISTの腫瘍細胞は、消化管の運動に関与しているカハール介在細胞という細胞に由来しています。
c-kit遺伝子の突然変異が起こることでKIT蛋白と呼ばれる物質の異常をきたし、細胞が異常増殖を起こします。

治療

大きさが2cm以下の場合はすぐに治療する必要がないので定期的な内視鏡検査で経過を見ていきます。
2cm以上になると手術で切除し、診断治療を行うことが推奨されています。
5cm以上の場合は悪性の可能性が高いので切除が必須です。

GISTの場合には転移を起こす悪性度の高いものもあるために原則的には治療が必要となります。
病変が胃に留まっているものについては外科的に切除します。
転移など他の部位に病変が及んでいる場合には、薬物治療(抗がん剤治療)を考慮します。

食道疾患

食道裂孔ヘルニア 逆流性食道炎 バレット食道 

食道裂孔ヘルニア

横隔膜には、血管や食道などが通る穴があいていますが、このうち、食道が通る穴(食道裂孔)から、本来、横隔膜の下にあるべき胃の一部が食道の方に飛び出してしまうのが食道裂孔ヘルニアです。
食道裂孔ヘルニアによって胃酸が逆流しやすくなり、胸の違和感や不快感といった逆流性食道炎が引き起こされることもあります。
生まれつき裂孔が弱い、加齢性変化、生活習慣や肥満などによって食道裂孔ヘルニアを起こしやすくなります。

逆流性食道炎

胃の内容物(主に胃酸)が食道に逆流することで、食道に炎症を起こす病気です。
健康な人でも胃酸の逆流がみられることはありますが、時間が短いため問題になることはありません。
逆流の時間が長くなると、食道の粘膜は胃酸に対し弱いため食道に炎症を起こすようになります。
成人の10〜20%がかかっていると推定されており、中でも中高年、特に高齢者に多くみられます。

バレット食道

バレット食道とは、胃食道逆流症を背景として発症する食道粘膜の組織学的な変化で、食道下部の粘膜が胃から連続して同じ円柱上皮に置き換えられている状態をいいますを指します。
胃酸が逆流することで、食道部分が酸にさらされる機会が増えバレット食道が発症します。
食道がんを発症するリスクが高まることが知られています。

 
 

症状

主な症状
  • 胸やけ
  • 飲み込みづらさ
  • 胸の痛み
  • かすれ声
  • 痰のない咳
  • 息切れ
  • 呑酸(喉の奥に胃液がこみ上げる)

のどの違和感、声のかすれ、咳などの症状は、寝ているときに胃液が喉のあたりまで逆流してくることにより起こる症状です。
進行すると潰瘍ができ、痛みが強くなります。
また、食道の炎症が強くなると出血(吐血や下血)する場合があります。

治療

胃液の逆流による症状がメインのため、内服による治療と生活習慣の改善が必要となります。

  • 内服治療
    胃酸を抑える薬(主にプロトンポンプ阻害薬)を投与します。
  • 生活習慣の改善
    暴飲暴食を避ける。
    高脂肪食、アルコール、炭酸飲料、喫煙をできるだけ控える。
    食後2〜3時間は横にならないようにする。

バレット食道そのものに対して有効な治療法が確立されていないため、原因となる酸の逆流を食い止めるしかありません。
そのためバレット食道の治療では、原因となっている逆流性食道炎を抑えることによって、悪化させないことを目指します。

食道裂孔ヘルニアによる逆流症状や難治性の逆流性食道炎を起こしている場合は、手術による噴門形成術などの 外科治療を必要とする場合もあります。

食道アカラシア

食道の下部には下部食道括約筋(LES)があり、普段はきゅっと閉まって胃の内容物が食道へ逆流するのを防いでいます。
食道アカラシアは、この下部食道活約筋が緩むという機能が傷害されて、食道内に食物が貯留・停滞して食道が異常に拡張し、食道の蠕動運動も障害される病気です。

原因

現時点では原因はよくわかっていませんが、食道や下部食道活約筋の神経細胞の変性・減少やウイルス感染がその一因ではないかと言われています。
20~40代の女性に多い疾患で、長期間経過すると食道癌を発症するリスクが高くなり、食道アカラシアの患者さんの3~5%に発症するといわれています。

症状

『食べ物が飲み込みにくい』、『つかえた感じがする』、『吐いてしまう』などの症状が出現します。
寝ているときに逆流しやすく、逆流すると咳がでたり、誤嚥性肺炎を発症する危険や、括約筋が過度に収縮して『胸痛』を認めることもあります。

治療

内服薬治療
下部食道活約筋圧を下げる作用のあるカルシウム拮抗薬,亜硝酸製剤や漢方薬を用いることもあります。

内視鏡的治療(バルーン拡張)
内視鏡的に下部食道活約筋部をバルーンで広げて筋肉の一部を裂くことで食道の流れを良くする方法です。
その他の治療として内視鏡的筋層切開術(POEM)も施設によっては行っています。

外科手術
現在もっとも確実な治療方法で、下部食道活約筋を含めた下部食道から胃噴門部の筋肉の一部を切開して通過障害を解除し、その後逆流を防止する目的で胃の一部を用いて食道に被いを作る腹腔鏡下Heller-Dor(ヘラー・ドール)法が一般的です。

胃がん

胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になって無秩序に増殖を繰り返すがんです。胃がん検診などで見つけられる大きさになるまでには何年もかかるといわれていて、大きくなるに従い、がん細胞は胃の壁の中に入り込み、外側にある漿膜やさらにその外側まで広がり、近くにある大腸や膵臓にも広がって浸潤いきます。
がん細胞は、リンパ液や血液の流れに乗って他の臓器に転移します。
最も多い胃がんの転移は、「リンパ節転移」で、リンパの関所のような「リンパ節」で増殖します。これは、早期がんでも起こることがあります。また、進行がんの一部では、腹膜や肝臓にも転移がみられます。

ピロリ菌の感染率の低下や食生活の変化のため減ってきていますが、それでも日本人にとってもっとも身近な悪性腫瘍の1つといえます。特に注意が必要なのは加齢とともに胃がんの罹患率が上昇していきます。検診を受ける機会が減ることが問題となります。早期胃がんでは、ほとんど症状がありませんので年に1度の検査をあらかじめ決めて毎年行うことが重要です。

原因・特徴

胃がんは60歳代に発生のピークがありますが、その前後でも癌が発生する可能性があります。
男性が女性よりも2倍程度かかりやすい傾向があります。
発生する部位にもよりますが症状はない場合が大部分で、検診をきっかけに発見される場合も多いです。

胃がんでは、発症に関わる要因がいくつか指摘されています。
喫煙習慣、塩分の取りすぎ、またヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への持続的感染などが、胃がんの発生リスクを高めるとされています。ピロリ菌は一度感染すると、除菌を行わない限り長期間にわたって胃の中に住み続けます。胃がんの発生とピロリ菌の感染は密接に関係していること分かっていて、ピロリ菌の持続感染は胃の粘膜を萎縮させ、がんを発症しやすい状態をつくりだしていると考えられています。
全ての方が胃がんになるわけではありませんが、除菌治療を行うことで、胃がんの発生を低下させることができると言われていますので、除菌治療を行うことが重要と考えられています。

症状

胃がんは初期の段階で症状が出現することは非常にまれで、進行しても場合によっては無症状のまま経過することもあります。
初期症状は合併する胃潰瘍や胃炎と類似した症状が出現するため、胃がんだと気づかず胃の不調として見過ごされることが多いのも特徴です。
がんができる部位によっては内腔が狭くなることで胃の中に食べ物が滞ってしまい胃の不快感や重苦しい感じを自覚することがあります。

食思不振、悪心・嘔吐

胃がんによって消化管が狭くなると、食べものの通過が悪くなり、胃が重く感じるようになります。
そのため、食欲がなくなったり、吐いたりすることがあります。

るいそう(体重減少)、全身倦怠感

食思不振や悪心・嘔吐によって、栄養を身体に吸収させることができなくなった結果、痩せたり全身にだるさが出ることがあります。

吐血・下血

がんによって胃の細胞が崩れて出血し、胃の中にたまった血液を体外に出すことで起こります。
下血の場合、胃からの出血は胃酸によって血液が酸化されるため、黒い便(黒色便)として見られることがあります。

腹痛・腹部不快感

みぞおちや臍の上の痛み、あるいは食事の前後に腹部に鈍痛やもやもやとした感じ見られるようになります。
胃がん特有の症状ではないものの、胃がん患者の多くが訴える症状です。

胸やけ

食道と胃の境界にがんができた場合に起こりうる症状です。
食物の流れが悪くなることによって、食後にものがつかえたり、食べ物がこみあがってくる感じがあります。

 

このほかいろいろな症状がありますが、症状の有無にとらわれず、定期的にバリウム検査や内視鏡検査を受けられることをお勧めします。

検査・診断

上部消化管造影検査(胃X線検査)

リウムを飲んで行うレントゲン検査のことです。
粘膜の細かい観察能力では内視鏡に劣りますが、胃の全体像や凹凸の変化をみることに適しています。
無症状な人からがんを見つけだす目的で検診や人間ドックで主に用いられています。
がんの部位や病変の拡がりを診断し、術式を決定するのに役立ちます。また、スキルス胃癌の診断にも有用です。

胃内視鏡検査

胃の内部を直接見て、がんが疑われる場所の広がりや深さを調べる検査です。
がんが疑われる場所の組織の一部を採って、がん細胞の有無を調べる病理検査もします。
胃に直接カメラを入れることで粘膜の微細な変化も鮮明に見ることができ、凹凸の少ない病変や出血も容易に確認することができます。

また、胃X線検査で疑わしい病変が見つかった際に確定診断として内視鏡検査を行うこともあります。

CT、PET-CT検査

胃がんの深さ(壁深達度)・範囲や周りの臓器への浸潤の有無を調べます。
また、リンパ節転移、肺・肝臓などの転移、腹膜転移がないかを確認します。
PET-CT検査は放射性ブドウ糖液を注射し、糖代謝が活発ながん細胞に取り込まれる分布を撮影することで全身のがん細胞を検出する検査です。ほかの検査で転移・再発の診断が確定できない場合に行うことがあります。

PET-CT検査について:毎週火曜日の午前中に放射線科の医師が診療をしています。
当院ではPET-CT検査は行っていませんが、放射線科の医師が在籍している病院への予約は可能です。

腫瘍マーカー

CEAやCA19-9と言われる腫瘍マーカーを血液検査にて調べていきます。
特にがんの治療効果や再発の判定に役立ちます。
しかし、早期の胃がんでは腫瘍マーカーの上昇が見られないことが多いため、他の検査と併せて検査をしていきます。
腫瘍マーカーが正常範囲内である進行胃癌の患者さんもしばしば見受けられますので過信はできません。

がんの進行度

全身検査によって癌の状態がわかったら進行度を確定させます。
癌の状態や進行度に応じた治療法を選択します。

●大腸がんの病期(ステージ)分類

  • ステージ0:がんが粘膜の中にとどまっている
  • ステージⅠ:がんが粘膜、粘膜下層にとどまっており、リンパ節の転移がないか、あっても近くのリンパ節のみに転移がある時、あるいはがんが筋層まで拡がっているがリンパ節に転移が認められない
  • ステージⅡ:がんが漿膜下層、漿膜に達しているが、リンパ節転移がない時、または中程度のリンパ節転移があるが、がんの深さが漿膜下層にとどまる
  • ステージⅢ:がんが漿膜に露出しており、同時にリンパ節転移を認める場合や、がんが漿膜下層にとどまるものの、中程度のリンパ節転移を認める場合、あるいはがんが他臓器に食い込んでいる場合
  • ステージⅣ:遠隔転移や遠くのリンパ節にがんがあると判断された時、腹膜播種が認められた場合

治療

主な治療法には、内視鏡治療、手術治療、薬物療法(化学療法)、放射線療法などがあります。
これらを組み合わせ、どのように治療するのかは、患者さんの状態や、癌の進行度などによって決められます。

それぞれのステージの患者さんに、科学的根拠(エビデンス)に基づいて効果の高さが 確かめられ広く行われている治療法である「標準治療」が推奨されます。
胃がんと診断されたら、自分がどのステージで、どのような治療を受けるのかを、きちんと理解しておくことが大切です。

    • ステージ0の胃がん
      ステージ0の胃がんでは、がんは粘膜の中にとどまっているので、内視鏡によってがんを切り取る治療をします。
      取り残しがなければ、ステージ0の胃がんは内視鏡治療のみで完治します。

    • ステージⅠの胃がん
      ステージⅠの胃がんの中で、胃壁への浸潤が浅いものに対しては、ステージ0と同様に内視鏡治療を行います。
      浸潤が深いものでは、内視鏡治療ではがんを取り残してしまう可能性やリンパ節転移を起こしている可能性があるため、手術によってがんの部分を含む胃と、転移の可能性のある範囲のリンパ節を切除します。(縮小手術)

    • ステージⅡ、Ⅲの胃がん
      ステージⅡ、Ⅲの胃がんでは、手術によって、がんの部分を含む胃と、転移の可能性のある範囲のリンパ節を切除します。切除したリンパ節にがんの転移があった場合には、再発予防のための抗がん剤治療(術後補助化学療法)が勧められます。

  • ステージⅣの胃がん
    ステージIVの治療は抗がん剤を中心とした治療になります。手術で全ての癌を取り除くことが難しく胃の切除を行うことは少ないです。ステージIVは肝臓や肺などに転移がある状態です。画像では捉えられない小さな転移が全身にあると考えられるので、全身をカバーできる抗がん剤治療を行っていきます。

内視鏡治療

胃内視鏡を用いてがんのある部分を切除する治療です。体への負担が少なく切除範囲も小さいため、食生活への影響も少ないのが特徴です。原則として、がんが粘膜層にとどまっていてリンパ節転移の危険性が極めて低い早期がんに対して、一度に全て切除できる大きさと部位にある場合に適応があります。
内視鏡治療の種類には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や、高周波ナイフを用いて切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。

また、上記に加えて以下の3項目を満たすことが望ましいとされています。

  • がんが粘膜にとどまっており2cm以下であること
  • がんの組織型が分化型であること
  • がんと同じ場所に胃潰瘍が合併していないこと

手術治療

入院期間は7日~14日程度です。(全身状態、基礎疾患、術式、術後経過によって変わります)
癌のできる部位によって術式や再建方法が異なります。

【 定型手術 】
主として治癒を目的とし標準的に施行されてきた胃切除術法を定型手術と言います。
胃の2/3以上の切除とリンパ節郭清を行います。

幽門側胃切除術

胃の出口に近い部位(幽門側)にある胃癌に対して胃の下部3分の2を切除する術式です。
日本人の場合は胃の下部にがんが発生することが多く、胃がんの手術の中で多く行われている手術方法です。

噴門側胃切除術

食道から胃の入り口(噴門)付近に存在する胃がんに対して行う治療です。
噴門側の胃を1/3~1/2程度切除し、残り2/3~1/2の胃を温存する機能温存手術です。
胃の上部に限局する早期胃がん・食道胃接合部がんの一部に対して行われる術式です。

胃全摘術

胃の上部にかかる進行胃がん、あるいは胃上部にかかる早期胃がんで幽門側の胃を半分以上残すことが困難な場合に選択される手術方法です。
胃を全部切除し、周囲のリンパ節を切除し、胆嚢、脾臓も切除することがあります。
胃切除後は、腸を切って持ち上げて食道とつなぎます。

【 非定型手術 】
進行度に応じて切除範囲やリンパ節郭清範囲を変えて行う非定型手術には、縮小手術と拡大手術があります。

縮小手術

腹腔鏡などを使用して胃の一部のみを切り取る手術です。
胃がほとんど残るため合併症などが起こる可能性が低くなります。

縮大手術

胃だけでなく多臓器合併切除(膵臓、脾臓、大腸など)や拡大郭清(遠くのリンパ節)も一緒に行われます。

【 非治癒手術 】
治癒が望めない症例に対して行う手術で、その目的から緩和手術と減量手術に分けられる。

姑息的手術

胃がんを治療するためではなく、出血や狭窄などの症状を緩和するために行う手術です。
腫瘍による狭窄や持続する出血に対しては、安全に胃切除が行える場合は姑息的胃切除を行いますが、切除が困難または危険な場合には胃空腸吻合術などのバイパス手術が行われます。

減量手術

切除不能の肝転移や腹膜転移を認め、かつ、出血、狭窄、疼痛など腫瘍による症状のない方に対して行う手術です。腫瘍量を減らし、症状の出現や死亡までの時間を延長するのが目的ですが、明らかなエビデンスはありません。

化学療法(抗がん剤治療)

胃がんに対する薬物療法は、大きく2種類に分かれます。まず、手術を行った患者さんの治癒の可能性をさらに上げるために手術に追加して行う薬物療法を補助化学療法といいます。
がんが他の臓器に転移していたり、術後にがんが再発してしまい手術の適応がないと判断された患者さんに対しては薬物治療が主体となります。

進行・再発胃がんに対する化学療法

主に手術によって切除不能な進行胃がん、再発胃がんに対して行われます。治療の段階として一次治療から三次治療まであり、一次から開始していき、薬剤の効果が弱い場合や副作用が強い場合に二次、三次と移行していきます。

消化器がんの領域では、”分子標的薬”とよばれるタイプの抗がん剤も近年広く使われています。
分子標的薬は、がん細胞の表面に多く見られたり、がんの増殖に深く関係したりする物質をターゲットとした薬剤です。
がん組織に栄養を送る血管の増殖を妨げる作用を持つ分子標的薬もあります。

代表的な分子標的薬として、トラスツズマブ・ラムシルマブがあります。
トラスツズマブは、細胞増殖にかかわるHER2というタンパク質をターゲットとした分子標的薬です。
ラムシルマブは、血管増殖にかかわるタンパク質をターゲットとした分子標的薬です。
また、免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法の有効性が示されるなど、治療の個別化・最適化が進んでいます。

術後補助化学療法

手術でがんを切除できた場合でも、目に見えないような小さながんが残っていて再発することがあります。
こうした小さながんによる再発を予防する目的で術後補助化学療法を行います。
手術後の患者さんの全身状態やがんの進行度を考慮しながら使用薬剤・方法などを検討します。

術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)

近年では薬物療法が強い効果を示し、手術不能な多臓器への転移が消えたり小さくなったりすることで、不可能と判断されていた手術が可能になる場合があります。
このように、薬物療法が顕著に効いた結果として可能となる手術を“Conversion surgery(コンバージョンサージェリー)”といいます。

放射線治療

胃がんの治療は手術が第一選択であるため、胃がんの治癒を目的において、放射線治療は第一選択となることはありません。
切除できない進行がんや抗がん剤が効かない進行がん、再発した胃がんなどに対する補助的な治療法として用いられる場合があります。
とくに、がんが骨に転移して、強い痛みのある患者さんに対しては、症状を軽減する目的で放射線治療が行われています。また、骨転移すると、骨がもろくなり、骨折をしやすくなるので、放射線治療をすることで、骨折を予防する効果も期待できます。

さらに、胃がんが血管を通して脳に転移した場合、脳に対する抗がん剤は一般的ではないため、放射線治療が主に行われます。放射線治療は、がん細胞が分裂して増える際に作用し、がん細胞が増えないようにしたり、細胞が新しい細胞に置き換わる際、脱落するよう促し、がん細胞を減らしたり、消滅させたりしていきます。
放射線治療では、その臓器を切除せず、そのまま残せるので、臓器の働きを阻害せずに済みます。放射線治療にはいろいろなメリットもありますが、胃がんの場合の治療法としては、手術による切除と抗がん剤治療が主流です。

胆石症 胆のう炎 胆管炎

胆石症というのは、胆嚢や胆管に1つまたは複数の結石(胆石)ができて、時に痛みなど様々な症状を引き起こす病気の総称であり、結石の存在する部位により、胆のう結石、総胆管結石、肝内胆管結石と呼ばれ、一般的には胆のうの中に結石が出来る胆のう結石を胆石と呼んでいます。
成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられると言われています。
この胆石が原因となり急性胆のう炎を起こします。原因の 85~95% は胆のう結石と言われています。

特徴

胆石症

胆石を持っている人すべてに症状が出るわけではありません。
半分以上の人は胆石を持ちながらも無症状で生活しています。
胆石が原因で胆のう炎を発症した時は、心窩部を中心とした疝痛発作が典型的で、これに右肩や背中の痛みを伴う場合もあります。
脂肪の多い食事を摂った後や、食べ過ぎた後に起きやすいという特徴があります。

総胆管結石

総胆管に胆石があると胆のう結石とは異なる問題を起こします。 結石が総胆管の出口に詰まることにより、胆汁が十二指腸へ流出できなくなります。
胆汁が出られなくなると皮膚や白眼が黄色くなったり、尿が濃くなったりと、黄疸が認めるようになってしまいます。
さらに胆管内で細菌が増殖すると胆管炎を起こします。

胆のう炎、胆管炎

胆のう炎の原因の90~95%は胆のう結石です。胆のう結石が胆のうの出口である胆のう管に嵌頓(はまり込む)することで、胆汁がうっ滞します。すると胆のう内側の粘膜が障害され、炎症が起こります。ここに細菌の感染が加わると、胆のう炎を発症します。

急性胆管炎は、胆汁の細菌感染に加えて、胆汁がうっ滞して胆管内の圧力が上がることの両方がそろったときに起こります。胆汁のうっ滞の原因には、総胆管結石、肝内結石、良性胆管狭窄のほか、胆管癌、乳頭部癌、膵頭部癌などの悪性疾患があります。

原因

胆石症のリスクファクターとしてForty(年齢)、Female(女性)、Fatty(肥満)、Fair(白人)Fecund・Fertile(多産・経産婦)の5Fが知られています。
その他のリスクファクターとしては、脂質異常症、食生活習慣、過剰なダイエット、胆のう機能低下などがあります。
胆石の種類としてコレステロール胆石(約70%と最も多い)、ビリルビンカルシウム胆石、黒色石、混合石などがあります。

治療方法

保存的治療

炎症が軽ければ絶食や輸液、抗生剤治療などの内科的な治療を行います。
炎症の程度や原因によって外来治療か入院治療での保存的治療のどちらを判断します。

外科的処置・内視鏡治療

炎症が強い場合は経皮経管胆嚢ドレナージ術という外科的治療が行われます。
これは腹部に針を刺して、胆嚢に溜まった胆汁を身体の外に出す処置で、炎症が治まったところで胆嚢を摘出します。

また、総胆管結石に対しては総胆管の出口は十二指腸にあるので、内視鏡で十二指腸まで進み、出口から総胆管内への検査・治療(内視鏡的逆行性胆管造影、乳頭筋切開など)が多くの場合行われ、消化器内科で施行します。

手術治療

入院期間は3日~7日程度です。(術後の炎症の程度、術後経過、基礎疾患等によって変わります。)
一時的に内科治療によって良くなっても再度発症するリスクがあるので、最終的には手術を行うようになります。

腹腔鏡下胆嚢摘出手術

腹腔鏡という手術用のカメラを使って手術を行います。
臍部などに4箇所小さな創をつけて、テレビモニターを見ながら手術を行います。
基本的には腹腔鏡での手術を行いますが、炎症が強く強固に癒着をしていた場合は開腹手術へ移行する場合もあります。

 
 

急性虫垂炎

急性虫垂炎は、盲腸という名でも知られている病気です。
実際は盲腸の先にある虫垂に便のカスなどが詰まって閉塞してしまうと虫垂内部で細菌が繁殖して炎症を起こし、虫垂炎となります。
原因ははっきりとはわかっていませんが、糞石(便のかたまり)、異物、細菌、ウイルス、腫瘍などです。
小児から高齢者まで幅広い年齢層において発症することのある頻度の高い病気の1つです。

症状と特徴

発熱、腹痛、発熱、吐き気、嘔吐、食欲低下、下痢などがみられます。
腹痛は、まず臍の周りや心窩部(みぞおちのあたり)が痛くなり、時間の経過とともに右下腹部に痛みが移動する例が多く、さらに炎症が進んで周囲に波及すると下腹部全体が痛くなります。

急性虫垂炎は3段階に区分できます

①カタル性虫垂炎(軽度の炎症を起こしています。)
②蜂窩織炎性虫垂炎(膿が虫垂のなかに充満、穿孔はない。)
③壊疽性虫垂炎(虫垂組織が壊死、穿孔を認め、腹膜炎、膿瘍を伴います。)

虫垂炎は適切に治療されれば予後のよい病気ですが、治療しないまま放置しておくと、虫垂は穿孔し、細菌を含んだ腸の内容物が腹腔内へ漏出して膿瘍を形成したり、腹膜炎を起こしたりします。
また、細菌が血流に乗って全身に広がると敗血症(菌血症、敗血症、敗血症性ショック)になり、致命的になる事もあります。

治療方法

保存的治療

炎症の軽い虫垂炎の場合には抗生物質の投与により治癒することがあります。
ただ、炎症が強い場合は薬で治すことが難しく、外科的に虫垂を切除する必要があります。
薬で治療出来るか手術が必要かどうかは、お腹の痛みの程度、血液検査での炎症の程度、CTなどの画像診断の所見などから総合的に判断します。

手術を行う場合には、診断のついたその日に緊急手術として行う事もありますが、数日間は抗生物質の投与で経過をみてから手術を行うこともあります。

手術治療

入院期間は3日~7日です。(術前の炎症の程度、術後経過、基礎疾患等によって変わります。)

当院では基本的には「腹腔鏡下虫垂切除手術」を行っています。
ただし、患者さんの状態を考慮し術式(開腹手術か腹腔鏡手術)を決定しています。

炎症が強い場合には、虫垂を含めて盲腸も切除したりする場合もあります。
虫垂が破れて腹膜炎になっている場合や膿瘍(膿のたまり)がある場合には、ドレーンという管をお腹の中に入れておきます。

腹腔鏡下虫垂手術

腹腔鏡という手術用のカメラを使って手術を行います。
3箇所の小さな創でテレビモニターを見ながら手術を行います。
基本的には腹腔鏡での手術を行いますが、炎症が強く強固に癒着をしていた場合は開腹手術へ移行する場合もあります。

腸閉塞(イレウス)

正常な腸では蠕動運動と呼ばれる動きをすることで、内容物を肛門へ向けて移動させながら必要な栄養や水分を吸収し、不要なものは便として排出します。
腸閉塞(イレウス)になると腸内に内容物(便、ガス、消化液など)がたまって腸の内圧が高まることで、お腹の張りや痛み、吐き気、嘔吐などの症状が引き起こされます。
詰まったままの状態が続くと腸管内圧が上昇して、腸管内に腸管内容物が停滞することで、腸内細菌が増殖し、エンドトキシンという毒素が発生してしまいます。
絞扼性イレウスでは、腸管の血流障害を起こし、腸管壁の壊死、穿孔により、内容物が腹腔内に漏れだし、腹膜炎から敗血症を引き起こすことで重篤な状態となってしまいます。

症状

腹痛

初期には軽度で間欠的な腹痛がみられ、徐々に強くなります。絞扼性イレウスの場合には強く持続的な腹痛を感じることが特徴です。
絞扼性イレウスでは早期に血流障害を伴うため激しい腹痛がみられます。

嘔気・嘔吐

閉塞が起きた部分から先に食べ物や胃液や腸液が流れていかなくなります。
腸の流れが悪い状態が続くと腸液の逆流が起き始めます。腸液の逆流は嘔吐の症状として現れます。
嘔吐は閉塞が起きている場所が口側に近ければ近いほど強い症状として現れます。

腹部膨満

腸管の内容物が停滞することによって、腸管が拡張し、腹部の膨満感が起こります。
腹部の聴診では、腸閉塞の種類によっては狭い腸管内を腸内容物が通過するときに発生する金属性の音が聞かれます。

排便・排ガスの停止

腸の内容物の輸送が障害されるため、排便や排ガスが停止します。
ただし、閉塞が完全ではない場合には、排便や排ガスが停止しないこともあります。

脱水

腸内容物の停滞によって嘔吐が起こり、水分・電解質を喪失し、脱水が生じます。
また、腸管内に大量の水分が溜まるため脱水を起こします。

全身状態の悪化

腸管の血流障害から、腸管壁の壊死、穿孔による腹膜炎を起こし、敗血症を招く恐れがあります。
また、消化管の吸収障害や、頻回の嘔吐で脱水症状が進行し、全身状態が急激に悪化する場合があり、ショックから死に至る危険性もあります。

特徴や原因

腸閉塞の起こりやすい人

  • 過去に腹部の手術を受けたことがある人(腸管癒着症)
  • 高齢者で元々腸の動きが弱くなって便秘がちな人
  • 大腸がんの患者さん
  • 過去に腸閉塞を起こしたことがある人
  • 糖尿病やパーキンソン病などの基礎疾患のある人
  • 麻薬や腸蠕動を抑制する薬を内服している人
機械的腸閉塞

腸が物理的に閉塞している状態で、閉塞性と絞扼性に分けられます。

    • 閉塞性(単純性)腸閉塞
      血行障害を伴わず、炎症、腫瘍、腹部手術などによる癒着などが原因で腸管が塞がれることで起こります。

    • 絞扼性腸閉塞
      腸重積やヘルニア嵌頓、腸軸捻転症や索状物などにより腸管がねじれることで血行不全を伴います。
      持続的な強い痛みが特徴で、急激に病状が悪化し、全身状態が重篤になります。
機能的腸閉塞
    • 麻痺性腸閉塞
      腸管運動が麻痺したものです。
      腹膜炎による炎症や腹部手術後に腸の動きを司る神経の異常、腹腔内の膿瘍形成などで生じます。痛みをあまり伴わず、お腹が張ります。

    • 痙攣性腸閉塞
      腸管が痙攣し収縮したものです。神経衰弱やヒステリー、鉛・ニコチンなどの中毒により生じます。

検査・診断

X線検査

腸閉塞に特徴的な腸管の拡張やニボー(腸管内にガスと液体がたまり、その境が水平に映し出されたもの)の有無を確認します。

超音波検査

拡張した腸管や拡張腸管内の内容物が前後移動(to and fro movement)している所見が見られます。
単純性腸閉塞では小腸の襞(Kerckring 襞)が浮腫状に肥厚して鍵盤徴候(keyboard sign)が認められます。
絞扼性腸閉塞では腸管壁は浮腫状に肥厚しKerckring 襞も消失します。
また、大量の混濁した腹水の発生は絞扼性腸閉塞を疑います。

腹部CT検査

CT検査は腸閉塞の診断には最も重要です。
閉塞部位や閉塞の程度、血行障害の有無などを評価します。
CT検査の方法の一つに造影剤を使用する造影CT検査があります。
複雑性腸閉塞を見分けるために大事な検査です。

治療方法

保存的治療

主に軽度の腸閉塞に対して行われます。食事や飲水を中止して胃腸を休めつつ必要な水分などを点滴で補ったり、小腸での閉塞の場合は、鼻から腸までチューブ(イレウス管)を挿入して腸の中の内容物を吸引して腸管内の圧力を下げたりします。
また、大腸での閉塞がある場合はお尻から大腸にチューブを入れることもあります。

手術治療

入院期間は腸閉塞の原因によって変わります。
保存的治療を行っても改善の見込みがない場合は手術をいます。

腸閉塞を起こしている原因によって開腹手術か腹腔鏡手術かを選択します。

閉塞性腸閉塞のうち、腫瘍が原因の場合は、消化管内の減圧を行ったうえで可能であれば腫瘍を腸管ごと切除し、その後残った腸管同士をつなぎ合わせます。
吻合できない場合は人工肛門をつくります。

癒着が原因の場合は癒着部分をはがしますが、腸管の損傷が激しい場合は腸管を切除する必要があります。

血行障害のある絞扼性腸閉塞などに対しては診断のついたその日に緊急手術として行う事もあります。
血行を再開させるため腸管のねじれ部分や折れ曲がった部分を修正します。 ただし、腸管が壊死してしまった場合には腸管の切除・吻合が行われます。

心と心の通った地域診療を

地域の皆様と共に疾病の早期発見・早期治療を目指してまいります

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