大腸がん
大腸がんとは大腸表面の粘膜から発生する悪性腫瘍の総称です。
ポリープががん化して発生するもの、正常な粘膜から直接発生するもの、遺伝性のものなどがあります。
早期の段階では自覚症状はほとんどなく、進行すると症状が出ることが多くなります。
また、がんが大きくなると、がん細胞がリンパ液や血液の流れにのって周辺のリンパ節や肝臓や肺などほかの臓器に転移を起こします。
大腸がんの治療には内視鏡治療、外科治療(手術)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療など様々な選択肢があります。
どの治療が推奨されるかは患者さん毎に異なり、大腸がんの深さ(深達度)に加え、転移、浸潤、腹膜播種の有無などから総合的に判断し決定します。
大腸がんの罹患率は50歳代から年齢が上がるにつれ高くなります。男性の方が女性より罹患率、死亡率ともに2倍ほど高いのが特徴です。しかし、発生部位別でみると男性では肺がん、胃がんに次ぐ3位なのに対し、女性は1位となっています。
罹患率においても女性では毎年増加傾向にあります。
大腸がんは日本人では直腸がん、S状結腸がんが多いとされ、次いで上行結腸がん、直腸S状部がん、横行結腸がん、盲腸がん、下行結腸がんの順になります。
原因
大腸がんの発生には生活習慣、特に食生活との関わりが深いと考えられています。
赤身の肉、ハムやソーセージなどの加工肉をよく食べる習慣や、低繊維・高脂肪の食事、過度な飲酒、喫煙は発症のリスクを高めるといわれています。
大腸がんが発生する過程は、腺腫と呼ばれるポリープが悪性化するパターンと、最初から悪性腫瘍として発生するパターンの2通りがあると考えられています。
さらに遺伝との関連性も指摘されていて、家族に大腸がん、もしくは胃がん、子宮体がん、卵巣がんなどを患った人がいる場合は、がんになりやすい体質であることが疑われるので注意が必要です。
また、がん以外の疾患についても、家族性腺腫性ポリポーシスという、大腸に無数のポリープが発生する遺伝性の病気は、治療せず放置するとほぼ100%がんになるといわれています。
症状
初期の段階では自覚症状がまったくないというケースも多いです。
進行するにつれて、血便、下血、下痢や便秘を繰り返す、体重減少、継続的な血便や下血による貧血など さまざまな症状が現れてきます。
癌が進行して大きくなると、お腹にしこりを感じることもあります。
また腸閉塞を引き起こすこともあり、便が出なくなったり、便が細くなったり、腹痛や嘔吐に苦しんだりといった症状も 見られます。
これらの症状は、大腸の出口、つまり自分から見て左側に腫瘍があると早期から出始めることが多く、比較的 気づきやすいです。
一方、大腸の入り口付近や中心辺りにある場合は腸が太いため症状が出にくく、腫瘍が大きくなってから発見されることも少なくないです。
検査・診断
便潜血検査が「陽性」の場合や、便秘や血便などの大腸がんを疑う症状がある場合に大腸内視鏡検査を行います。
盲腸から直腸までの全大腸に異常がないか調べます。(一部小腸も観察します。)
検査で大腸がんを疑う病変が見つかった際には病変の一部を採取して、病理検査で癌かどうかを確認します。
施設によっては、大腸CT検査を行っています。(当院では行っていません。)
炭酸ガスで腸管を膨らませてCT撮影を行い、3次元画像を作成し大腸の病気を診断します。
大腸内視鏡検査に比べ飲用する下剤量が少なく、体への負担も少ないのが特徴です。
ただ、大腸内視鏡検査のように組織を採取したり治療をすることはできないため、異常があった場合は 内視鏡検査を行います。
癌と診断されたらCT検査、MRI検査などによって腫瘍の状態やリンパ節や他の臓器に転移がないかどうか詳しく検査をします。
そのほか、腫瘍マーカー検査、PET-CT検査などを行い、転移の有無や進行度合いも含めて診断を確定させます。
●PET-CT検査について
毎週火曜日の午前中に放射線科の医師が診療をしています。
当院ではPET-CT検査は行っていませんが、放射線科の医師が在籍している病院への予約は可能です。
がんの進行度
全身検査によって癌の状態がわかったら進行度を確定させます。
癌の状態や進行度に応じた治療法を選択します。
●大腸がんの病期(ステージ)分類
- ステージ0:がんが粘膜の中にとどまっている
- ステージⅠ:がんが大腸の固有筋層までにとどまり、リンパ節転移がない
- ステージⅡ:がんが大腸の固有筋層の外まで浸潤し、かつリンパ節転移がない
- ステージⅢ:がんの深達度に関わらず、リンパ節転移がある
- ステージⅣ:他の臓器や腹腔内への転移があるもの
治療
主な治療法には、内視鏡治療、手術治療、薬物療法(化学療法)、放射線療法などがあります。
これらを組み合わせ、どのように治療するのかは、患者さんの状態や、癌の進行度などによって決められます。
それぞれのステージ(進行度)の患者さんに、科学的根拠(エビデンス)に基づいて効果の高さが確かめられ広く行われている治療法である「標準治療」が推奨されます。大腸がんと診断されたら、自分がどのステージで、どのような治療を受けるのかを、きちんと理解しておくことが大切です。
- ステージ0の大腸がん
ステージ0の大腸がんでは、がんは粘膜の中にとどまっているので、内視鏡によってがんを切り取る治療をします。取り残しがなければ、ステージ0の大腸がんは内視鏡治療のみで完治します。
- ステージⅠの大腸がん
ステージⅠの大腸がんの中で、大腸の壁への浸潤が浅いものに対しては、ステージ0と同様に内視鏡治療を行います。浸潤が深いものでは、内視鏡治療ではがんを取り残してしまう可能性やリンパ節転移を起こしている可能性があるため、手術によってがんの部分を含む腸管と転移の可能性のある範囲のリンパ節を切除します。
- ステージⅡ、Ⅲの大腸がん
ステージⅡ、Ⅲの大腸がんでは、手術によって、がんの部分を含む腸管と、転移の可能性のある範囲のリンパ節を切除します。切除したリンパ節にがんの転移があった場合には、再発予防のための抗がん剤治療(術後補助化学療法)がすすめられます。
- ステージⅣの大腸がん
ステージⅣの大腸がんの場合は、がんの部分を取り除くだけでは、ほかの臓器に転移したがんがまだ残っている状態なので、すべてのがんが取り切れたことにはなりません。一般に大腸がんでは、肝臓や肺に転移したがんも、手術で切除することが可能であれば、積極的に手術を行います。
転移のある場所・数や、その時点での身体の症状などに応じて、手術以外の治療法(化学療法や放射線療法など)がすすめられる場合もあります。ステージⅣの大腸がんの治療は病状により様々です。
手術治療
入院期間は7日~14日程度です。(全身状態、基礎疾患、術式、術後経過によって変わります)
当院では基本的には「 腹腔鏡下切除手術 」を行っています。
大腸癌は癌のできる部位によって術式が異なります。
また、ご高齢の患者さんや全身状態が悪い患者さん、癌による閉塞で腸炎を起こしている場合、直腸癌などでは人工肛門(一時的もしくは永久的)が必要な場合もあります。
ただ、開腹の手術歴があったり癌の部位や進行度によっては開腹手術を選択する場合もあります。
化学療法(抗がん剤治療)
抗がん剤は大腸がんを根治する治療とは言い難いですが、延命効果はあります。そのため、抗がん剤を適したタイミングで用いることが一般に勧められます。
大腸がんは手術が最も成績の良い治療とされていますが、転移や再発によって手術することが難しい場合や、手術後のがん再発を予防するための補助療法として、化学療法が行われています。
また、術前化学療法という治療法があります。これもがんを根治するための治療ではないのですが、手術の前にがんの増殖を抑え、がんを小さくし手術をしやすくする目的で行われています。
がんの遺伝子異常の種類に応じた治療や、一部の大腸がんでは免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法の有効性が示されるなど、治療の個別化・最適化が進んでいます。
転移・再発を起こした大腸がんの化学療法
大腸がんの化学療法で使用できる薬剤は何種類もあります。どのような薬剤を使って治療するかは、主に次のような要因を考慮して決められます。
- 患者要因
合併症の有無と種類、年齢、認知機能、治療への意欲、価値観などを考慮して、その人に合った薬剤を選択します。また、家族などの有無や、通院距離(または時間)なども考える必要があります。
- 腫瘍要因
RASやBRAFといった遺伝子変異の有無、原発部位が大腸の右側(盲腸・上行結腸・横行結腸)か左側(下行結腸・S状結腸・直腸)か、転移の起きている部位、腫瘍の量、腫瘍に伴う臓器障害の有無、出血の可能性、穿孔の可能性、骨転移の有無などを考慮して、薬剤を選択します。
RAS遺伝子変異のないタイプ(野生型)には、抗EGFR抗体薬セツキシマブ、パニツムマブが使われます。
原発部位が大腸の右側だとこれら抗がん剤の感受性が低く、左側だと感受性が高いことがわかっています。
- 治療強度
腫瘍を縮小させる作用は、使用する薬剤によって違いがあります。FOLFOXIRI+オキサリプラチン+イリノテカン+ベバシズマブは、副作用は強めですが、腫瘍を縮小させる効果が高いという特徴があります。
腫瘍が大きいことによる症状が出ている場合や、手術ができるようになる可能性がある場合には、副作用が強めでも治療強度の高い治療法を選択します。
EGFR:上皮細胞増殖因子受容体
VEGF:血管内皮増殖因子
VEGFR:血管内皮増殖因子受容体
放射線治療
放射線療法は、がんの三大療法の1つで、がん細胞を死滅させるために高エネルギーの放射線を照射する治療法です。
主に直腸がんに対して、手術前にがんを小さくして人工肛門を回避したり、術後の再発を抑制したりする目的で行われます(補助放射線療法)。
化学療法と併用する場合がほとんどで、週5回×4~5週間照射するのが一般的です。
手術で切除するのが難しい骨盤内に再発したがんや、骨や脳に転移したがんに対して、痛みや不快な症状を抑えるために放射線を照射することもあります。
最近では一部の専門施設で先進医療として陽子線や重粒子線を用いた治療も行われています。
放射線療法には、照射が可能な部位とそうでない部位があり、特有の副作用もあります(腸炎による下痢、膀胱炎、皮膚炎など)。
放射線療法に適しているかどうかはがんの部位と病状によって判断します。