痔瘻とは
肛門の中のくぼみ(肛門陰窩)が細菌の入り口となり、その奥にある肛門腺に感染が起こって膿が溜まります。(肛門周囲膿瘍)この膿が自然にでたり、切開することによって肛門内(原発口)と肛門周囲の皮膚(2次口)に膿みの通り道(瘻管)が残ります。
このトンネルができた状態を痔瘻といいます。
肛門陰窩がもともと深い人、疲労やストレスによって肛門内の免疫が低下、アルコール摂取などによる下痢が原因と考えられています。
それ以外にも裂肛からできるもの、膿皮症、Crohn病,結核,梅毒、 HIV感染,などが関与するものもあります。30-40歳代の男性に多く見られます。小児(主に乳幼児)にも見られることもあります。
症状と特徴
肛門周囲膿瘍になると痛んだり腫れたりしますが,痔瘻は通常は痛みはなく,しこりを触れたり,分泌物や膿が出たり,かゆみを感じるなどの症状があります。
また、痔瘻は細菌の通り道なので、再び化膿して肛門周囲膿瘍になることもあります。
痔瘻が自然に治ることは少なく、放置すると徐々に瘻管が深く広がり悪化することがあります。
再発を繰り返し複雑化してしまい、その状態で長期間無治療でいると稀に癌化することもあるため基本的には早い段階での手術治療が必要になります。
痔瘻の分類
痔瘻は瘻管の走行と肛門括約筋との関係によって4つのタイプがあります。
日本では「隅越分類」が多く用いられています。
Ⅰ:皮下痔瘻(粘膜または皮下の内括約筋との間の腔)
Ⅱ:筋間痔瘻(内、外括約筋の間の腔)
Ⅲ:坐骨直腸窩痔瘻(肛門挙筋下腔)
Ⅳ:骨盤直腸窩痔瘻(肛門挙筋上腔)
H:歯状線より上方
L:歯状線より下方
この痔瘻パターンによって治療方法が変わってきます。
治療方法
痔瘻の自然治癒はまれで,基本的には根治手術が行われます。
主な術式は瘻管開放術、括約筋温存術、seton法などがあります。
単純なもの、複雑なもの、瘻管の深さや括約筋の貫いている程度など痔瘻のタイプや状態によって,根治性と肛門の機能温存を考慮した術式を選択します。
痔瘻の状態によっては肛門機能に障害が残ったり再発してしまう可能性もあります。
手術治療
入院期間は約2-10日間
痔瘻のタイプ、手術方法によって入院期間は異なります。
切開開放手術(瘻管開放手術)
主に肛門の後方にできたⅠ、Ⅱ型痔瘻に行う手術で、痔瘻の入り口(原発口)と出口(二次口)までのトンネルとなっている瘻管の部分を切開し開放する術式で、lay open法とも言われます。
この切り開いた部分の縫合は行わず、自然に傷が治るのを待ちます。
肛門の後方部であれば、括約筋の一部分を切除、切開しても肛門機能への影響は少なく、再発が少ない手術です。
括約筋温存手術
肛門の前方、側方にできたⅡ、Ⅲ型痔瘻に行う手術で、主にⅡ型痔瘻に行います。
痔瘻の入り口(原発口)と出口(二次口)までのトンネル(瘻管)のみを切除する術式でくりぬき法(coring out法)ともいいます。
肛門の変形や機能障害を最小限に留めるため、肛門括約筋をなるべく傷つけないように行う方法です。
最近では痔瘻に対する手術では根治性が求められる一方で,肛門機能の温存が重視されてLIFT法という括約筋の損傷をさらに抑えた術式も行っています。
シートン法(痔瘻結紮療法(seton法))
原発口と二次口の瘻管にseton(ゴム紐など)を通して少しずつ縛って時間をかけて括約筋が切断されつつ治っていくので、括約筋の損傷が少なくて済む方法です。
くりぬき法を行った後にもsetonを留置することが多いです。
術後は外来でゴム紐の締める強さを少しずつ調整して、約2-4か月くらいかけてゆっくり切離していきますので治癒までは少し時間がかかります。